1/200デラックス武蔵


発売時期 発売時価格
1959/05 ¥3800


(キット画像協力:北川氏)

20世紀最後を飾る研究テーマは、タミヤが木製模型メーカーとしてひとつの金字塔を建てた1/200「デラックス武蔵」です。

発売は昭和34(1959)年5月。マルサンの国産初のプラモデル「SSN−571ノーチラス」の発売が昭和33年12月ですからその半年後になります。当時の広告にはこの木製「デラックス武蔵」と並んでニチモの初のプラスチックモデル「伊号潜水艦」(¥100)が載っています。頂点を極めた木製模型と新素材の先鋒が並び、ちょうど1年後のプラスチックモデル大和対決を思うと非常に興味深い広告です。

昭和30年代前半、タミヤは大型軍艦、戦車、鉄道などの木製模型を多数発売し、中でも「武蔵」はまさに旗艦(フラッグシップ)として各種スケールを発売します。先に触れたように、にしきやに「戦艦大和」の模型化商標権を取られた対抗措置としてそのこだわりさえうかがえます。昭和32年の時点で5種類、この1/200「デラックス武蔵」の段階で7種類。そして船体をくりぬき型一体成形にした「スーパーシリーズ」でそれぞれのスケールで作り直していきますのでその数は10種類を越えます。

キットを見ていきましょう。ずっしりとした重量感は当然で、なんと6.5kgもあり迫力十分です。箱を開けると真っ先に飛び込んでくる主砲塔パーツに圧倒され、続いて船体を形成する木製パーツを見て唖然とさせられます。しっかりとした材質の封筒も入っており、「一般配置図」「原寸部品図」「組み立て説明図」がそれぞれ中に入っています。特に「一般配置図」はまさに“図面”でして、これだけでも神々しい美しさを持っています。船体は前部と後部を左右に積層して作り、中間部分は左右に貼り合わせて中は角材が横に渡されて空洞になります。ここまで組み上げるだけでもかなりの技術を要し、これぞ大人の模型です。プラモデルと違ってランナーにパーツNo.の刻印といったわけにいきませんので、部品番号は「原寸部品図」を見ての現物合わせになります。「組み立て説明図」を見るとまさに後の世のプラモデルの組み立て説明書と全く同じですから、我々世代がいかに恩恵を受けているかが再認識させられます。これにまだ塗装は下地作りから始まるのですから相当の覚悟が必要でしょう。全長が1m31cmを考えると現在の住宅事情では飾るのも大変です。

モーターライズにするにはTKKのNo.5モーター(!)かTKK65モーターを使用しての2軸推進で、4軸にするには中央の2つはギアで分配するのでNo.4モーターを使い、両脇のスクリューにはNo.2モーターをそれぞれ使う3モーターシステムです。乾電池の量が信じられない数でして12〜24本位と書いてあります。もともと木製模型ですから沈むことはないでしょうがそれにしても桁違いです。この時代から部品請求カードが付いていることも注目です。

このキットを組んだ人はいるのか?という質問にはまごう事なき答えがあります。他でもない静岡の田宮歴史資料館に完成品が展示してあるのです。最初見たときはあまりの出来の良さにプラスチックモデルのディテールアップ版かと思ったのですが(この表現自体がソリッド派の方にとっては暴言ですね)、よくよく見ると2度びっくりといったところでした。この完成品は「田宮模型全仕事3」にしっかりと載りましたのでここで転載させていただきます(ネスコさん、20世紀最後だから許して...)。皆さんも先人の素晴らしき技術を味わって下さい。

なお、最後になり恐縮ですが、この1/200「デラックス武蔵」のキットの画像は「北川さん」から協力いただきました。御本人の希望により名字だけ紹介させていただきますが、改めてここに感謝の意を表します。ありがとうございました。


デラックス1/200!全長1m31cm!! ずっしり重い箱の中。手前の封筒は「原寸設計図」。
船底を組み上げるだけで... 細かいパーツも当然すべて木製。
一般配置図その1 一般配置図その2
原寸部品図。赤線で船体のシルエットが... 組み立て説明図。船体は貼り合わせなのがわかる。

艦橋だけで40個以上の木製部品。
主砲塔の迫力!戦艦の顔だけに慎重に同じ物を3個作る。
モーターと電池の記述に唖然。木製零艦も興味深い。
日本模型新聞S34年05月25日号広告より。武蔵は7種類発売。ニチモにも注意!

日本模型新聞S32年3月5日号広告より。この時は5種類。


「田宮模型全仕事3」p142より転載。信じられない程の完成度の高さ!木製キットですよ、念のため。