パンサー


発売期間 発売時価格
1967/02 ¥1800



タミヤがプラスチックモデルメーカーからスケールモデルメーカーに転身したキットとしてこの「パンサー」を挙げるのに異論を挟む方はいないでしょう。1967年1月号を創刊としたタミヤニュースVol.1の新製品紹介記事に初めて出てきたのがこのキットです。それまでタミヤは主力の1/35に対してデラックス戦車シリーズとして1/21でシャーマン、ビッグショット、M2ガン、ハーケンクロイツ、3号戦車と5種類のキットを発売しましたが、アバディーン戦車博物館の実車取材第一号として1/25という新スケールを設定しました。しかしこれを新シリーズとせず先の1/21の続き番号を与え「1/21〜1/25デラックス戦車シリーズ」としたのです。

M4シャーマン チーフテン
ビッグショット T34
M2ガン 10 SU100
ハーケンクロイツ 11 タイガーT
3号戦車 12 パンサー
パンサータンク 13 ロンメル
ロンメル 14 センチュリオン

といった訳でこのキットはデラックス戦車シリーズNo.6となり、カタログにもDTW106と表記されるのですが、当研究室に保存されているキットはDR2007でキットNo.7と明記されています。ついでにこの後発売されるロンメルもDR2008でキットNo.8と明記され、つじつまがあってます。でもキットNo.8は本当はチーフテンでDTW208として当研究室にも保存されています。キットNo.8が実際にダブっているのです。これはどういう事でしょう?さらに調べてみると1/21ハーケンクロイツのシングルがSR2006キットNo.6と表記されていました。ハーケンクロイツのリモコンはキットNo.4と明記されています。いきなり混乱していますが、どなたかDTW106と書かれたパンサーの存在を確認できる方、研究室助手までメールをお願いします。

気を取り直して早速キットの箱を開けてみましょう。レッドブラウンの成形色パーツと、キャタピラやギアボックスが入ったブリスターパック、押しボタンリモコンボックスなどがひしめいています。当時のタミヤニュースVol.1には、このキットの特徴として次の4点を挙げています。

1.ポリエチレン製連結キャタピラである
2.転輪のサスペンションに実物と同じトーションバー方式を採用した
3.車体表面の梨地加工と溶接表現
4.金属部品の多用

いずれも当時の模型界では画期的な事でした。今見ても1,2,4の画期的な事はすぐ理解できると思うのですが、3の「梨地」というのがピンと来ない方がいらっしゃるかと思います。それまでの模型の表面はツルツルの物が常識で、例えば当研究室で既に紹介されているタイガータンク等もそうですが、プロポーション以前に表面が(顔が写る程は言いすぎですが)ツルツルでオモチャ然としていました。色を塗れば大分違ったのでしょうが当時は塗料を持っている方が少数派、そんな訳で表面につや消し加工され、あえてざらざらとなった表面処理は高級感がありました。

発売当時の1967年で定価が¥1800。当時の小学生にとっては模型店のショーウインドウの一番上にあるのを指をくわえて眺めるしかなかったキットです。大金持ちの子供やお年玉を溜め込んで(といっても発売が2月なので一年待たされたか...)買っても、良かれと思って完全再現された金属部品多用の車体下部はとても子供の手におえるものではありませんでした。実際、金属トーションバーを留める金属ワッシャー(部品番号94、写真参照)の取り付けが大変だったと当時の小学生の証言も最近得ております。(ありがとうございます筑波大のA少年)

全くもって画期的で国内はもとより海外でも絶賛されましたが、何分(実質)初めての完全スケールキットだけに新しい試みも多く、初期のミスもいくつかありました。しかし普通はそのまま販売を続けるものですが、タミヤはあっさりこれを製造停止にし改訂版をキットNo.12として新発売とします。まずシングルとして発売が時に1972年8月、わずか6年後の事でした。そして1973年7月にリモコンも改定新発売となりました。これで先に問題になったキットNo.の件もすっきりさせました。改修の大きなポイントは下記の通りです。

◎組みにくかった車体下部の改修
 ・金属バネによるサスペンションを廃止
 ・金属サスペンション、ワッシャーを廃止し、プラスチックの弾性でのサスペンションに
 ・高くなっていた車高を低く
 ・後輪駆動から実車と同じ前輪駆動へ...その為ファイナルギヤーも可動再現!
◎車体上部の改修
 ・機銃、ジャッキなどOVMの完全新規金型改修
 ・エンジンルーバーメッシュのモールドを廃止し穴開きに
 ・前部ハッチ、前方機銃も実車と同じ可動に
◎成形色の変更
 ・車体はレッドブラウンから当時ドイツ標準のダークイエローへ
 ・キャタピラも黒からメタリックグレイへ
◎リモコンボックスが押しボタン式から前後進2段レバー式
◎リモコンコードを本体と脱着可能なコネクタを新採用
◎スライドマークが車両番号をランダムに作れる全数字版に
◎戦車兵、将校等の人形4体の新設

この新リモコンパンサーの冬季戦線の迫力あるボックスアートは、あの上田信画伯ですが、ロシア製の対戦車砲や冬季ヤッケ着用のドイツ歩兵がキットに入っていなかった(当たり前だと思うのですがアメリカの消費団体の抗議という例のアレです)事が響いて、すぐにキット内容に見合った高荷義之画伯のボックスアートに変更になりました。ちなみに上田信画伯がタミヤのAFVを担当したのは非常に数が少なく(1/100ミニジェットではヴィゲンやファントム等多数あり)、当研究室で確認できているのは他に1/25リモコンセンチュリオンだけです。どなたかご存知の方はご一報をお願いします。
...と言っていたら、なんとご本人に確認できる機会を得てしまいました。(1999/05/11)「タミヤAFVはその二つだけだなあ」とのことです。インストのイラスト等では多数あるのは皆さんもご存じだと思います。

ちなみに初版のスライドマークですが赤丸の中に電柱を書いたようなマークは自由フランス軍のものです。取材車両に付いていたとは言え、あまりにもマイナーな為改訂版ではカットされました。このキットには思い入れの強い方が多いと思います。苦情、ご意見は掲示板とメールで常時受け付けております。

すると早速、ノースフォックスの石井氏よりとんでもないキットの提供を受けました(1999/05/12)。
な、なんと「1/21(!)パンサー」です。ボックストップにも、ボックスサイドにも、インストにも「1/21」の表記が...これは間違いなく1/21だ!と叫んでも中に入っているのは1/25のパンサーです。よく見ると部品パーツに付いているタグは1/25表記です。つまり、デラックスシリーズの新作パンサーが1/21でなく1/25に変わったことが末端部分まで伝わっておらず、従来の1/21のまま印刷してしまったのでしょうか?あるいは1/25スケールのスタートというのはトップシークレットだった事は想像に難くなく、他社を欺くために直前まで1/21で印刷に発注し(まるで第一次世界大戦の“タンク”みたい)、一気に変更するはずがどこかでズレが出てしまったと考えるのが普通でしょうか。いずれにしろこのロットが最初期版であることは間違いなく、そのキットに「キットNo.7」と明記されていることより先のキットナンバー問題に一応の決着が付くのではないでしょうか?

ちなみにこのキットはギアボックスなどはブリスターパックに入っておらず、透明窓が付いた青い箱に入っておりました。全くもって奥の深いキットです。


箱の中。まさに豪華版 問題の?スライドマーク
ギアボックスのモーター部分に入っている針金の束が
サスペンション用のピアノ線(部品番号7)
金属性L字型サスペンション。大小2種類ある
小袋にワッシャー(部品番号94)も入っている
改訂版ボックスアート。上田信画伯 改訂版の2版目ボックスアート。高荷義之画伯
車体全部の比較。左:初版、右:改訂版
初版はハッチが簡単なモールドのみ
初版はエンジンルーバーの中にメッシュのモールドがあったが
改訂版では削除され穴開きに
車体下部の比較。改訂版では高さが5mm低くなった 車体上部前方が入る切り欠き部分の地上高さでは8mm低い
初版車体下部。後輪駆動で車体にはビス穴が多数 改訂版車体下部。前輪駆動ですっきりしたものに
初版アイドラーホイル。後輪駆動のため実車に無いトゲトゲが.. 改訂版アイドラーホイル。実車同様つるつるに
改訂版の新規パーツ。下は人形 改訂版のトーションバーとリモコンコネクタとファイナルギア
初版インスト:94のワッシャが難解。7のピアノ線バネも注目 改訂版インスト:プラスチックの弾性を利用したトーションバー
初版:後輪駆動 改訂版:ファイナルギヤーの可動再現がうれしい

初版:前方機銃がなんともあっさり 改訂版:となりと間違い捜しクイズを楽しんで下さい

最初期版はブリスターパックではなかった。 な、なんと!1/21表記!!
ボックスサイドも1/21表記! インストまでも1/21表記!!