アポロ1号


発売時期 発売時価格
1968/6 ¥650



1998年の「絶版キット研究」最後を飾るのは、スケールモデルメーカーの田宮が世に問うたSFキット、スーパースペースシリーズNo.1「アポロ1号」です。

前年から始まったサンダーバードプラモデルブームが1回目の頂点を迎え、この年の3月にあの伝説の大型キット「サンダーバード秘密基地(電動)」が¥2,200でイマイから発売されます。世はまさにSFブームで、さすがに重い腰を上げた田宮がオリジナルSFキットを発売しました。

このキットが新製品の案内としてタミヤニュースに載ったのはVol.9です。同時に紹介されている物に1/25リモコン「チーフテン」、1/35「クイックジューコフ」!と「ホワイトベアー」、リモコン「スターリン」とありますので、田宮も戦車で乗りに乗っている時で、盟主の座?をマルサンやイマイと競っていた時期でもあります。

接着剤を殆ど使用しないスナップキットになっていることや、電球や、ギアボックス、スイッチ等が既に組み上げられている車体下部を見ると年少者向けなのですが、高級感あるボックスアートに代表されるように、「決して子供のオモチャじゃないんだ」といった主張も感じられます。

「宇宙開発探検車アポロ1号は、地球を遠く離れた月世界で使われるために作られた物です...」で始まるキット解説は、設定にある地球防衛軍が本当に存在するかの様な錯覚さえ与え、「空中から探検車の位置がすぐわかるように車体の中央には真上に向けた発光装置がついており3色の光を発しながら走ります」のあたりでは感涙した子供達も多い筈です。

先に触れたようにポリエステル樹脂製の車輪は接着剤無しではめ込む事ができ、キットが完成すると円盤が回って3色の光を天井に照らし出しました。またゴムキャタピラのモールドは1/35のT34と全く同じなのですが長さが3分の2程になり、色も黒では無くてグレーとなりました。

まずもって間違いない作りだったのですが、この年の暮れにマルサン(この時はマルザン)がまさかの倒産、そして翌年にはイマイまで倒産に追い込まれます。タミヤもスロットカーがパタと売れなくなったり苦しい時を迎えますが、本来のスケールキットで乗り切ります。この余波でアポロ1号と姉妹キットのジュピター2号も製造中止になり、72年版のカタログで早くも姿を消して2度と世に姿を見せない幻の(またか)キットになってしまいました。

余談ですが、このキットは¥650円で発売になり、その後一度も値上げする事無く短い生命を燃焼させたのですが、当研究室にあるアポロ1号は青シールの¥800版となっています。この青シールが初めて登場したのが1973年5月のオイルショック値上げの時ですから、どこかのおもちゃ屋に売れ残っていたものをどさくさに店主が便乗値上げしたのか、あるいは在庫品に田宮本社が青シールを貼った物なのかは確認が取れません。

(1998/12/28)

この「アポロ1号」の前回の日付を見るともう3年以上前に更新したページなんですね。突然ですが、この完成品を塗装することになりました。他でもない「I LOVE TAMIYA」展に展示するためです。

「I LOVE TAMIYA」展は、とても“コンパクト”なスペースにいかに中身を濃く展示するかが勝負です。キットのボックスが中心で、完成品の展示数は限られているのですが、その中にこの「アポロ1号」があります。当研究室には、以前あの十川俊一郎さんから譲っていただいた貴重な貴重な完成品(素組み、車体未塗装)があり、これをそのまま展示する予定でした。しかし「I LOVE TAMIYA」展のチラシの裏面にしっかり「アポロ1号」のボックスアートが印刷されているので、お客さんも何か期待していらっしゃるのではないか?という疑問・不安(?)がふつふつと湧き上がり、なおかつ田宮模型全仕事3の時に一度は完成させようとして他ならぬ十川さんにPCで再現していただいたデカールが未使用で残っていること、3月10日(昨日でした)に「JOSFオフ会(日本オリジナルSFプラモオフ会)」が開かれるので作品参加したいといった動機付けが重なり合って、突然プライオリティーが変わり、日程が押し迫ったこの3日間程のほとんどすべての時間が費やされました。

いざ始まってみると、またまた余計な事を考えます。展示するのが目的なので“動かなくてもいい”のですが、時間が無い時に限ってそういったところにこだわりたくなります(正直、このページの原稿を今書いていること自体、実はナニです)。十川さんから頂いたのは5年ほど前なのですが、全く動作試験を行っていませんでした。というのもその時点でキャタピラがかなり硬化してきており、とても動かすことを考えられる状態ではなかったからです。今回は大胆な考えで突破できました。ゴムキャタピラは1/48リモコン戦車「カノン」の物を使います。これまた5年程前のタミヤモデラーズギャラリーのジャンク市で一組100円で売っていたものが日の目を見ました。幅はまずまずですが長さがかなり長く、そのままではもちろん使えません。しかしここは発想の転換で、惜しげもなくカッターナイフで切断し、9コマ程短くして瞬間接着剤で接着し直しました。最近の瞬間接着剤というのは本当に凄いもので、強度も全く問題がありませんでした。コツはトラックとトラックの間で切断するのではなく、トラックの中央で切断することです(接着断面積を稼ぐため)。ギアボックス自体は簡単な 調整で、あっけなくキュラキュラと音を立てて復活しました。3色の光線も見事です。

塗装はサーフェイサーの2度吹きにタミヤのマットホワイトの缶スプレーの3度吹きが基本塗装で、後はエアブラシを使ってマスキングしながら細部を塗っていきました。資料は大西画伯のボックスアート1枚のみです。前面両サイドのライトのクロームシルバーと中央部のレッドが良いアクセントになりました。この前面パーツはフラットブラックのクロームシルバーのフチ取りにしたかったのですが、クロームシルバーはなんといっても「タミヤペイントマーカー」の発色をどうしても使いたく、マスキング無しの筆塗りになりました。マスキング自体はそれほど難しくはないのですが、筆塗りでのマスキングでは過去に何度も染み出しはみ出しの苦い経験があり、「マスキングはスプレー塗装のみ」という固い決意(?)があったのです。十川さんの自作デカールの調子は最高で、見事に「アポロ1号」がボックスアートの塗装のままで復活しました。私の知る限り、「アポロ1号」がまともに塗装された作例はこれまで、どの書物、Web上でも発表されていません(田宮模型全仕事3の作例は、タミヤ所有のものですが、未塗装にデカール貼りです)。改めて見てみても本当に素晴らしいボディーライ ンですね。

へろへろになりながら3月10日当日朝方に完成した作例をねこにいプロダクツの高見さんに預け、仕事に出かけました。仕事を終え(?)JOSFオフ会会場に顏を出してみると、思いもかけないものが待っていたのです。それは「マルさん」が出品なさった「ジュピター2号」の完成品だったのです!!(マルさん自身もまさか「アポロ1号」が出てくるとは思っていなかったそうです)。残念ながらミサイルキャリア部分はありませんでしたが、見事な状態で残っていました。未塗装なのですが妙に状態が良いので聞いてみると、地肌を生かすために徹底的にコンパウンドで磨いたそうです。そしてマルさんの「ジュピター2号」はゴムキャタピラの状態も良く、オリジナルのまま走行可能でした!もちろん並んで走行させたのは言うまでもありません。

この「アポロ1号」は「I LOVE TAMIYA」展に展示されます。最後になりましたが、あらためて十川俊一郎さんに感謝いたします。

(2002/03/11)


ブリスターパックもされ高級感抜群。 組み立て済み車体下部とゴムキャタピラ。
地球防衛軍の設定もあり、注目の3色円盤も見える。 スライドマークの左下にあるのは↓を参照。
本体に電池を内蔵し、円盤も回る。 このバッジで君も地球防衛軍の隊員だ!
見事なプロポーションの車体上部。 問題の¥800値上げ青シール
資料提供:十川俊一郎氏


ゴムキャタピラはご覧のような状態です。 デカールはご覧の様に再生!(作:十川俊一郎氏)
ゴムキャタピラも変更。走る!光る! 内部色はジンクロ色にしてみました。


いざ、「I LOVE TAMIYA」展へ出動!


JOSFオフ会にて「ジュピター2号」を発見!マルさん凄い! 並んで走る!光る!


恐るべしJOSFオフ会。リック・オーシェさんが持ち込まれた自作サンダーバード基地プロップを借りて撮影。