田宮模型全仕事2

(車、バイク編)


助手にとっての夢のまた夢の本「田宮模型全仕事1」の校了を終え、充実感と虚脱感に襲われていた時にも文春ネスコの担当U女史はヒタヒタと次を進めていました。畏れ多くも再び私に依頼がありましたが、いかに世間知らずの助手でも車、バイクについて文章を書く器でないことは認識しております。あの平野克己氏を編集長に迎えることをお願いして再び編集に参画することとなりました。

車、バイクといえばタミヤにおいてはかなり「新しい」ジャンルになるため、「田宮模型全仕事1」のターゲットであった(少なくとも助手はそう考える)40歳前後の読者をいかに満足させるかが課題です。この答えは最初から出ており、だからこそ平野氏をお迎えしたようなもの、そう、スロットレーシングカーです。

「田宮模型の仕事」で俊作社長自らが語っているようにスロットレーシングカー(スロットカー)はタミヤが「世界のタミヤ」として認識される大きなきっかけになったキットです。極論すれば1965年と1966年(S40、41)の2年間だけ日本中を熱狂の渦の中に巻き込み、そのブームの終焉の唐突さから35年経った今でも伝説として多くのファンの心を捉えて離さないキットです。これまでスロットカーについての本はいくつか出版されましたが、結果的にブームの一人勝ちとなったタミヤのキットさえ、すべてをカラー写真で網羅したものはありませんでした。

スロットを作り倒した平野氏の原稿は秀逸です。特に「シャシー変遷」は、誰もが知りたくてもこれまでまとまった物がなかったコラムです。そうかと思えば「ワークスドライバーは何人?」といったマニア心をくすぐる遊び精神も決して忘れません。氏のネットワークで多数のキットが日本中から集まってきましたが、それでもすべては揃いません。そこでインターネットも駆使しての助手の出番となります。特に売られた期間が極端に短かった「グランプリシリーズ」は困難を極めました。ネットで知り合ったAさんが以前連絡を取ったことがあるBさんの友人Cさんが持っていたらしいといった情報を一つ一つ確認していきます。辿り着くのは大変でしたがどなたも快く協力していただけました。何度も「もうだめだ、ここは空白にするしかない」とあきらめかけそうになりましたが、未だに信じられないことに締め切りの直前にすべてが揃ったのです。本になると小さな写真ですが一つ一つのキットに全国のマニアの熱い思いがこもっています。

オールドファンにはスロットですが、この本の本線は始めから決まっています。平野編集長と助手の二人に任せたらこのキットにいったい何ページ使ってしまうだろうと担当U女史をハラハラさせたのが1/12ホンダF1です。新生タミヤの歴史を切り開き、世界にスケールモデルメーカータミヤを紹介した金字塔のこのキット。巻頭グラビア、本記だけではその思いは伝え切れません。そこで設計担当である岡部和生氏にインタビューをお願いすることにしました。「田宮模型の仕事」でも俊作社長自らが語っているようにとても希有な方で、現在タミヤとはライバルにもなるプロタージャパンの代表をなさっている方です。人を介して初めて電話で挨拶し、「とにかく一度会って下さい」とお願いしました。当日の緊張感は本文インタビューに少しでも表れているでしょうか?とても貴重な話を聞くことが出来ました。このホンダF1に関して、助手はキットNo.11ではない初版No.1のモーターライズホンダF1の再現にも固執しています。

そして、夢のまた夢の一つ「田宮俊作社長インタビュー」の実現です。おかげさまで俊作社長にはこれまでホビーショーなどで何回かお話を伺っておりますが、正式なインタビューはもちろん初めてです。ポイントは「いかにして世界のタミヤに成り得たか」の1点に絞りました(十川さん、アドバイスありがとうございます)。これまで世の中に知らされていないことがいくつか紹介できたのではないかと思っております。

編集を進めていくと、あれほど膨大な量と質を誇る静岡のタミヤ歴史資料館にも完成品が展示されていないキットがいくつか出てきます。そこで「長年お世話になったタミヤへ少しでも恩返しになる千載一遇のチャンス」と助手は当研究室所有の未組立キットをいくつか寄付し、それを組んでもらうことにしたのです。それが先の初版1/12モーターライズホンダF1であり、いくつかの旧ロゴキットなのです。ちなみにその中からp147の「サーブ1」は平野編集長の作品。p151の「サンダーボルト」はなんと!助手が作った物を畏れ多くも載せていただきました。さらに「ねこにいプロダクツさん」が自らのコレクションから快く取り出して組んで下さったのが同じくp151の「ブルーバード」です。

1冊の本にまとまってみると、正直助手がそれほど思い入れの無かった(ホントに失礼)1/24スポーツカーシリーズなどもアイテム数220を越え、素晴らしい歴史があることを改めて知らされて恐縮することしきりです。このシリーズと1/12オートバイシリーズの解説を担当なさった横川秀行さんにこの場を借りて改めて感謝いたします。

(2000/07/25)

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