日野 30tトレーラー


長い間、宿題になっていた製作日記を公開していきます。

この「日野30tトレーラー」を作ったのは2年以上前です。最初にお断りしておきますが、ニコニコと諸手を挙げて公開できる内容ではありません。微々たる数の私の模型製作キャリアですが、このトレーラーは背筋を伸ばして本当に神妙な気持ちで作りました。それは、不幸にも一人の方が亡くなったある交通事故の再現検証の為の製作だったからです。

事故はワンボックスカーと30tトレーラーの間で起き、ワンボックスカーを運転していた青年が亡くなりました。青年のご両親を始めとした遺族の皆さんが警察の事故検証に納得がいかず、現在も裁判中です。当研究室助手は本業のマスコミの端くれとして、この事故を専門の民間の交通事故鑑定人・駒沢幹也氏とともに取材して検証しました。別のある運送会社の協力を得て、同タイプのトレーラの実車を借りて検証もしました。CG(コンピュータグラフィック)を使って再現もしますが、トレーラー事故の場合は牽引車と荷台の接続部分で起きるジャックナイフ現象というものがあり、模型を使っての説明も有効と考えられました。

ワンボックスカーは1/24スケールでほぼ同じ物(同一車だが年式違い)を用意できましたが、肝心のトレーラーそのものの模型が市販されていません。調べてみるとミツワ社から1/24スケールで、荷台タイプではないがカーキャリアタイプが発売されていることがわかりました。「後ろが全く違うが、トレーラーのジャックナイフ現象の再現ということに特化するなら意味があるのでは」との判断の元に、このカーキャリアタイプの模型を購入し、実車の実験の日に間に合うように組み立てました(素組み塗装ですが、それでも5日間程かかりました)。

同型トレーラーの実車を使っての実験は成功しましたが、一方の模型を使っての再現では、カーキャリアタイプの模型ではカーキャリアの牽引車への接続軸が実車で数十cmも後方にあることと、牽引車そのものの後部車輪の数が違うこと(そこが衝突位置であっただけになおさら)から、上手く説明出来ないことが判明しました。

しかし交通事故の取材だけに、トレーラーのメーカーから取り寄せた3面図もあり、実車実験の時に細部写真もデジカメで多数押さえてあります。どうしてもこだわりたい当研究室助手は帰宅後、気がつくと稚拙な図面を引き始め、実車実験翌日には東急ハンズの木工フロアに足を運び、生まれてはじめてのフルスクラッチを始めてしまったのです。

わけもわからず始めてしまったものの完成する自信は正直ありません。いざ作り始めてしまうと細部にこだわりたくもなります。しかし、こんなことを始めてしまったことはご遺族である両親には相談してありません。「衝突のメカニズムを説明するだけなら、もっと概念的な模型で良いのではないか?ヒンジまで再現して何の意味があるんだ?ただの自己満足ではないか?」ご両親にとって決して気持ちの良いものではないトレーラーを精密に再現しても良いのだろうか?心証を害するようだったら、完成しても世の中に出すのはきっぱりとあきらめようとの意識を常に持ちながら進めました。

通常の業務をこなしながら、どうしてあのペースで(最後の1週間は1日の平均睡眠時間は3時間でした)、それも初めての事が出来たのか2年経っても謎ですが、残された製作途中のデジカメ画像の日付と時間が冷静に進捗状況を記録していました。それによると15日間で完成したことがわかります。

ご両親の元を再び訪ねて、よく説明をした上で「実はこんな物を作ってみました」と恐る恐る箱の中から模型を取り出しました。ご両親に喜びはありません。まずは驚きです。

・・・当研究室助手が模型にこだわったのには理由がありました。それは、この事故に関して初めてご両親にお会いした時のことでした。涙ながらに「ここでこうなって」と事故の説明をするご両親の手には、申し訳ないほどチープなトレーラーとワンボックスカーのミニカー(いやオモチャ)があったのです。2つのスケールも合わなければ車種も細部も全く違います。そして何人にも同じ説明を繰り返していらっしゃるからでしょう、ペイントがはげてボロボロになっていました。最愛の息子の事故についてこんなオモチャを使って説明しなければならない。なんとかしてあげられないのか。しかしそれは「親切の押し売り」ではないのか・・・。

ご両親からの最初の言葉は「こんなにまでして作っていただいて・・・」でした。「こんなもの2度と見たくない、帰ってくれ!」と模型を叩き壊されても仕方がないとまで覚悟していた当研究室助手にとっては、肩の力が抜けた瞬間でした。この模型はスタジオに持ち込まれて事故形態を再現したものを撮影し、後にご両親並びに交通事故鑑定人の方にお渡しし、今後の裁判で役立てていただくことになりました。

2年以上の月日が流れ、ここに拙い製作日記を公開しますが、当研究室助手の気持ちは当時と何ら変わっていません。しかしここでは「トレーラー模型のフルスクラッチ」という“模型製作”の一点で進めていくことをあらかじめお断りいたします。

※念のため確認しておきますが、当研究室助手はこの事故について加害者or被害者がいずれも有利or不利になるために取材を行っているのではありません。ただ「真実」が解明されるのを願い、進めているものです。これはすべての人に共通の思いだと考えます。

(2004/01/21)


日程 日付 内容 更新日時 更新
1日目 2001/11/06(火) カーキャリアタイプ素組み 2004/01/21
2日目 2001/11/07(水) 素材板の切り出しから組み立て 2004/01/21
3日目 2001/11/08(木) 木製表面の目止めとシャーシの切断 2004/01/23
4日目 2001/11/09(金) 荷台部分の細部工作(1) 2004/01/28
5日目 2001/11/10(土) 荷台部分の細部工作(2) 2004/01/29
6日目 2001/11/11(日) ヒンジの工作(1) 2004/01/30
7日目 2001/11/12(月) ヒンジの工作(2)・他 2004/01/30
8日目 2001/11/13(火) 小物の工作 2004/02/02
9日目 2001/11/14(水) ヒンジの工作(3)・他 2004/02/02
10日目 2001/11/15(木) 基本塗装(サーフェイサー吹き) 2004/02/02
11日目 2001/11/16(金) 塗装(1) 2004/02/04
12日目 2001/11/17(土) 塗装(2) 2004/02/07
13日目 2001/11/18(日) 幌の工作 2004/02/15
14日目 2001/11/19(月) 汚し塗装 2004/02/28
15日目 2001/11/20(火) 撮影 2004/03/02
- 後日 スタジオ撮影 2004/03/03
- 後日2 カーキャリアタイプの再製作 2004/03/03