高機動車・・・みたいな

陸上自衛隊高機動車・・・に見えますか?


2005年6月23日(木)。イラクのサマワで自衛隊の車列わきで爆発事件があり、高機動車が破損しました。幸い死傷者はありませんでしたが、一歩間違えると大惨事になっていた可能性があり、日本国内でも一気に緊張が高まりました。

第一報があったのは日本時間の昼、「サマワで自衛隊車両が襲われた」というものでした。大型トラックではないという未確認情報もあり、そうなると“軽装甲機動車”か“高機動車”の2種類しかありません。そこで念のためと“軽装甲機動車”の模型を急遽用意したのですが、数時間後に“高機動車”と判明。“高機動車”の模型は世の中に発売されていないので(この原稿を書いている2005年11月現在も状況は同じ)、即時に模型で対応は不可能ということでCGを多用して紹介しました。



06月30日(木)
<あと3日>

資料収集&製作開始

早い段階で被害車両の画像も公開されましたが、追加情報も少なく、その後は国内報道に大きな動きはありませんでしたが、丁度1週間経った木曜日の午後、カイシャの美術スタッフから内線電話がありました。「サマワで襲われた高機動車の模型ってありますか?」「え?」

なんでも新しい情報(考え方)を持った専門家を招き、3日後にあたる7月3日(日)の朝に、襲われた“車列の模型”を使って説明したいとか・・・。

助:「先週の発生時に、当日の美術スタッフの方には説明したのですが、
   高機動車の模型が世の中に発売されていないので、ムリですね。それも“車列”ですよね!?」
美:「いえ、完全再現というわけではなくて概念的でも、似たような車両でもいいんですが・・・
   どうしても無いと説明しづらいので、お願いしたいと言うんですよ」
助:「それでしたら、高機動車は米軍のハマーにそっくりですから、それを使うしかないですね」


結論として、例によってワタシが自宅で作る事になりました(^_^;)
一番大切な事は“間に合わせること”です。

襲われた車列は先頭から軽装甲機動車、高機動車、高機動車、軽装甲機動車の順に合計4台で構成されています。スケールは1/35で再現するしかない事はすぐに判断がつきました。幸い軽装甲機動車はタミヤから1/35塗装済み完成品が発売されています。高機動車もタミヤのハンビーを使う事にしました。都内の主だった模型店に電話を掛けるのですが、なかなか全てが揃っているお店がありません。パズルのように電話予約をして、結局複数の店をハシゴしながら帰宅しました。

まずは、何は無くとも資料収集です。はやる気持ちを抑えながらネット検索で画像を集めてプリントアウトし、クリアファイルにまとめると早くも木曜日の深夜です。残された時間は50時間あまり・・・但し、当研究室助手は“よりによって”金曜日と土曜日が特に本業が忙しいという時間制約の中、基本方針の確認です。

・高機動車はハンビーから時間の許す限り改造する
・その改造は1台のみとし、もう1台は簡易改造とする
・軽装甲機動車はタミヤの完成品で対応する

時計の針がてっぺんを回った頃、ボンネットに合わせてプラバンを削り始めました。


画像を公開してくださっている方に感謝です
軽装甲機動車のキットはなんとデカールだけの為に購入
ハンビーのボンネットをプラバンで塞ぎ始めます
もう1台は無改造の予定なので、丁度比較用の画像に。




07月01日(金)
<あと2日>

ボンネットの改造と幌1

高機動車はあまりにもハンビーに似ているので“ジャンビー”と揶揄されたとかされないとか言われているだけに、なるほど確かに似ていますが、細部はかなり違います。今回は必要最小限の改造で“高機動車にいかに似せるか”を心がけました。ポイントは3点です。

・ボンネット及びフロントグリルの改造
・幌の新規製作
・フロントウインドウ枠の改造

ボンネットはハンビーが複雑な構造で、高機動車の方が平面的(最終的には凹凸が激しいが)なので、プラバンとポリパテでどんどん埋めて行きます。ポリパテが乾くあいだに幌の製作です。支柱は真鍮線で作ることにしましたが、肝心の幌の材質に悩みました。そこでピンとひらめいたのがアーマーモデリングライターである伊藤康治さんの作品集。この中に18tハーフトラックFAMOの幌の自作方法が公開されているのです。限られた時間内ですが、逆に言えば「こんな機会でもないとなかなか実行できない」と思い、やってみる事にしました。結果は大成功。先人が試行錯誤を繰り返してたどり着かれた事を、惜しげもなく公開してくださる。この場を借りて伊藤さんに感謝いたします。ありがとうございました!

幌のポリパテが乾くあいだにフロントウインドウの簡単な改造です。ハンビーは左右2枚のガラスですが、高機動車は大きな1枚ガラス。バックミラーのステーも形状が違うので取り去ります。フロントウインドウのサイドは、ハンビーが若干ハの字型なのに対し高機動車は垂直なのですが、今回は目をつぶります。



フロントグリルも削り取り、プラバンでボンネットを埋めます フロントグリルを自作し、ボンネットをポリパテ埋め
大日本絵画発行:伊藤康治作品集。素晴しい本です 沢山の画像でテクニック公開
真鍮線で支柱を作り・・・ “高級”ティッシュペーパーを水溶き木工ボンド液に浸し・・・
十分に乾燥させ、ケバ立ちを抑えるため
ポリパテをクレオス溶剤で薄めて塗りこみます
フロントウインドウの改造
ワイパーやボルトのモールドも取り去ります



07月02日(土)
<あと1日>

ボンネットの改造と幌2

毎週土曜日は早朝3時からカイシャでシゴトをしています。お昼過ぎになんとか切り上げ、帰宅途中に東急ハンズに寄って、「タミヤ1/35陸上自衛隊員セット」のフィギュアを2セット購入しました。前回にまとめて購入しておけば良かったのに、なまじ節約モードで購入しなかったら、結果的に大幅な時間のロスとなってしまいました。帰宅していよいよ作業開始。明日の朝には完成させていなければならないので、もう残された時間はありません。

帰宅して、まず触ってみたのが幌。本来のポリパテでしたら1〜2時間で乾くのですが、クレオスの薄め液を入れているので乾燥時間が遅くなります。先の伊藤さんの本には「ポリパテの乾燥には丸一日待ちます」とあったので気になっていたのですが、実質12時間ほどで乾いていました。ポリパテの効果で、適度な硬さになっており、サイドに窓をくりぬくことも可能になりました。

問題は手付かずのもう1台です。この時点(土曜日の夕方)でこれからもう1台ボンネットを改造するのは時間的にムリなので、幌だけを改造する事に決めました。しかしこちらもポリパテはとても時間的にムリ。そこで、濡れティッシュペーパーで覆うだけにして、サーフェイサーのエアブラシ仕上げに頼ってみました。

次に、24時間近くポリパテを乾燥させた改造ボンネットの作業に移ります。奇麗にヤスリを掛けて、フロントライトが入るアナを開けると良い感じなりました。次に細い短冊状に切った1mmプラバンを貼っていき完成です。本来でしたらこの短冊状の出っ張りは、型を取ってからボンネットパーツをヒートプレスすれば、よりリアルなエッジのダルさになるのですが、これまた断念となりました。

全体に1回目のサーフェイサーを吹いたところで、深夜2:00。徹夜間違いナシの状況になりました。


12時間ほど乾燥。しっとりさも残って(?)良い感じ。 ヘリに合わせて慎重にカットします。
もう1台は木工ボンド水溶きティッシュを貼って
食器乾燥機で急速乾燥させただけ。
丁寧にヤスリを掛けて仕上げるとイイ感じ
ヘッドライトの穴は3mmドリルで開口し、リーマーで拡大
無改造のハンビーとのボンネット比較。
まさに“顔”だけにかなりイメージが変わる。
サーフェイサーを吹きました。
ポリパテなしの幌も意外に大丈夫そう



07月03日(日)
<あと0日>

完成&納品


完徹なので、“どこからが日曜日の日記”とするかは微妙なところなのですが、答えは簡単です。1回目のサーフェイサーを吹いた画像のあと、途中経過画像が殆ど残っていませんでした。いかに厳しい状況だったかがわかりますね(^_^;)

唯一残っていたのが朝の4:19という時間が刻まれた、幌の窓としてビニールを貼る途中画像。2度目のサーフェイサー吹きから、車体や幌の塗装を2時間ほどで終えているのが判ります。幌の横の部分の片側3個の窓は、イラク仕様車ではどうなっているのか公表されていませんが、模型では透明ビニールを両面テープで裏側から貼りました。

仕上げにデカールを貼るのですが、このためだけに(なんと贅沢!)軽装甲機動車のキットを2台購入してあり付属のデカールを使う予定でした。しかし、てっきり軽装甲機動車と同じ大きさと思っていたサイドに貼られた日の丸やアラビア文字が、高機動車では一回り小さいことが判明。結局、PCでスキャンしてデカールを自作する羽目になっていました。結果的にボンネットに貼る日の丸マーク1枚のみ、純粋な軽装甲機動車のデカールをそのまま使っています。

このあとデカールを貼る部分には何度もスーパークリアーをエアブラシして表面をなだらかにし、デカールを貼った後に十分乾燥させてスーパークリアーエアブラシでサンドイッチ。フィニッシングペーパーで研ぎ出した後に再びスーパークリアーをエアブラシして、最後につや消しスーパークリアーをエアブラシするのはいつもの手順です。とにかく間に合わせることがプライオリティーなので、デカールを貼った後に、なんと食器乾燥機に入れた記憶も断片的にあるのですが、良い子はマネをしないで下さい。

最後に、汎用パーツの中からサイズに合ったクリアレンズパーツをフロントライトに入れて完成です。なんとか出来上がった画像の撮影時間を見ると、朝の8:03。カイシャに朝8:30に納品する予定でしたので、慌てて車を飛ばしました。

なんとかギリギリ飛び込んでセーフ。担当デスクやスタッフの「へ〜!」という声で徹夜の苦労も吹っ飛びます。検証用の展示台が用意されており、ここで初めて4台の車列が出来上がります。2台の高機動車の前後を警備するように先頭と最後尾に軽装甲機動車が並び、上方の機銃はそれぞれ前後を向いて警備に当たる・・・。それまでの模型製作とは全く違う緊張感が漂います。ここで初めて、この日お願いしている専門家の方(自衛隊関係者でもあります)に対面したところ、「え!?これ、あなたが作ったんですか?良く出来ていますね」と驚かれました。

リハーサルを終えて、本番まで30分ほど時間があったので、スタジオの片隅で最後に仕上げにとりかかりました。それは5月の静岡ホビーショーで一大センセーションを巻き起こした、タミヤのウエザリングマスターです。もちろん、まだ発売前だったのですが、土居さんや金子さんといった著名なモデラーの方々の為にごくごく少数試供用サンプルが用意されており、ワタシもおこぼれに預かって、1セット頂いていたのでした(すみません)。「もらったからには使うのが礼儀」と、まさに実践を兼ねて使ってみました。

結果は唖然とするほど素晴らしいものでした。特に軽装甲機動車はタミヤの完成品を2台並べただけですが(先の専門家の方が、こちらの方に驚いていらっしゃったのなら、大きな誤解でしたね)、そのままではピカピカの新品状態ですので、このウエザリングマスターの効果はテキメンでした。本当にわずか30分ほどで、4台の簡易ウエザリングが終了しました。ちなみに本職のメイクさんもその場にいらっしゃったのですが、「アイシャドーにそんな使い方もあるんですね〜。え!?専用の物なんですか!?」と心底驚いていらっしゃいました。

本番では「1分間ほど映るのかな」と思っていたのですが、なんと20分以上も使われたので驚きました。被害に遭った3台目の高機動車をそれなりに作り込んだつもりだったのに、なぜかダミーの2台目(ハンビーそのままの塗装変え幌付き)が何度も映りこんでいた気がするのは、本人だけだったでしょうか。余談ですが、翌日某所で行われた模型メーカーの方々の会合で「昨日のあの高機動車は何でしょうね?」と、ちょっとした話題になったそうです。

冷静に今振り返ってみると、全体の車高バランスから始まり、細部にもおかしなところが満載なので、こうしてWeb紹介するべきか迷ったのですが、「当時の限られた時間の中で、出来る事をやった」という自己満足のみで、駄作紹介の数がまた増えてしまいました。

最後になりましたが、当研究室助手はマスコミの端くれとして、自衛隊のイラク派遣については責任あるバランス感覚を持っているつもりです。限られた条件の下、現地に派遣されている個々の自衛隊の方々には本当に頭が下がり、無事故を願うばかりです。ここでは「模型製作」という視点のみで紹介していることをお断りいたします。

(2005/11/04)


手前の透明ビニールに両面テープを貼りました ついに完成!朝の8:03
実際に当時の車列を再現しました。 3両目に当たる被害車両の高機動車
先頭車両の軽装甲機動車。簡易ウエザリング済み。 3台目の高機動車にピントを合わせました。